なんで自分はこんな写真を撮っているのかと言うのを語るのに避けて通れない人がいる。北井一夫さん。
大好きね。北井さん。今や押しも押されぬ大作家になった。都立写美でも展示が行われるほどの作家。美術館レベルの人。ちなみに一回目の木村伊兵衛賞を受賞している人。
私が10年前に写真を始めた頃からずっと好き。最初にグッとつかまれたのが「フナバシストーリー」で、団地住まいの市井の人々を撮った写真。
綺麗な写真ですごく身近に感じた。1970年代の高度成長期のフナバシを撮ったものなんだけれど、もうそろそろ北井さんの撮った団地も老朽化で取り壊しが進んでいる。
一時期、ある団地に通ったのもこの写真集の影響。ちなみにその団地はもうない。撮っておいて良かった。今見直すとそう思う。
取り壊し中。
こっちの方が買いやすいんだけれど、紙質は六興出版の方が好き。
ちなみにどちらも持ってる。
その後、日本カメラで「ライカで散歩」を連載しているのを知ってずっと読んでた。大好きで大好きで。
連載が終わるって知った時、もうカメラ雑誌買うこともないなって思ったほど。
全巻持ってる。最高だから。
もう、ビリビリくる。これは広角だろーって思ったらエルマー5cmだったーとか。なんでこんな風に撮れるんだろうとか。普通の風景、光景なのに。どうやったら撮れるんだろうって。
2007年にライカで散歩の個展をされるということでギャラリーをうかがった時のことが一番思い出深くて。
初めてお会いしたときはギャラリーの方に声をかけていらっしゃいますか?と尋ねたら、その人が北井さんだったというぐらいオーラがないというか、飄々としている方で、驚いた。そこで話したことは今でも忘れられない。
「露出計はあった方がいいじゃない。便利だよね。」って言われた時は目から鱗だった。恥ずかしいぐらい、鱗が落ちた。だって結果残しているもの。
どこで買われているのか尋ねたら、普通の私たちが買っているところだったし、メンテナンスをしているところも有名メーカーとかじゃなくて昔からお願いしている人だったり。M5を買って調子悪くなったら今度そこに出そうと思っている。
その時はすべてのプリントについて、一緒に見てくださって、これはここが気に入っているんだよね。このヘクトールの28mmはあんまり黒が締まらないんだよねとか。
結構手ブレの写真があって、当時の私には不思議でならなかったんだけれど、これは?と尋ねると、普通に夜の写真をT-MAX100でヘクトール2.8cm f6.3で撮ってる。
しかも開放じゃなかったかも、一絞り絞ってるかもって。涼しく言う。でも、すごく雰囲気がいいんだよね。ブレているからいいんじゃなくて、撮るものがいい。と言っても、被写体は「月とビニルハウス」なんだけれど。
あれは同じ場所に立っても絶対に撮れないないと思った。
この時に、現像とかはしていないの?と尋ねられて、当時はフィルムだけ現像していたので、そう答えると、「プリントもして欲しいなぁ。まぁ、我々写真家は生業だから自分でしないといけないけれどね」ってしみじみ言われて、自家プリントの決断をした。
「あと、やっぱりカメラとレンズは使わないとダメだね。絶対に防湿庫に入れない。使えばカビは生えないからね。」と、にこり。
「50mmと押さえで35mmを持っていればいいじゃない」と。
ガーン。10年前のあの話を今思い出しては防湿庫を眺めている、私。
北井さんの写真は私たちも同じ場所に立てるところで撮っているけれど、絶対に同じような写真は撮れない。そこが魅力。
持って行った「フナバシストーリー」にサインしてもらった。
10年前当時でプリントは5万円だった。最高に安かったのに買わなかった自分にバカと言いたい。今や20万越えでしょう。
最近久々に写真雑誌を買った。理由は北井さんが出ているから。
これも読んですごく良かったのは北井さんのページ。ライカM5とエルマーのイメージが強い人だけれど、北井さんもブレない人。
いや、以前の写真はアレ・ブレのすごい写真が多いんだけれど。それには理由があって、表現というより仕方なくというところが強かったみたい。
森山さんと北井さんの会話を以前読んだ時が面白くて、北井さんは「三里塚」のころはお金がなくて印刷する紙質が悪くて、どうしても黒を出したくてコントラストあげた写真にしていたって。
プリントも20~30分の露光も当たり前だったとか。森山さんと対談したら、森山さんは40~50分ぐらい露光するからやることなくて、外に出て喫茶店でコーヒー飲んで帰ってくるとちょうどいいとかって。
「三里塚」は4万もするよ。
これなら私も持っている。
「抵抗」とか、もう高くてというか、出てこないので買えない。
かと思ったら、あった。64800円。
この初めての写真集は自費出版で全然売れなくて自分の写真集を「寝床」にしたって。この寝床にした「抵抗」は今やどこにあるんだろう。
北井さんもフィルムと決別したけれど、α7IIとエルマーで色々と試していて、そろそろ「印刷物」がみられそうって。
「抵抗」を撮った二〇歳の時から写真家として五〇年、銀塩フィルムと印画紙を使って今まで写真をつづけてきた。しかしここで、分身のように長く連添った銀塩フィルム、印画紙と別れる決心をした。これからは私の写真で、銀塩フィルムによる撮影と印画紙でのオリジナルプリント制作はないということである。私の新しい写真は、すべてデジタルカメラで撮影してデジタルプリントをして、作品は写真集などの印刷物だけになる。
これはずい分覚悟を必要とする決心だったが、五〇年ということがあったので踏切れたのだと思っている。この「抵抗+COLOR 補足版」を出版して、これから写真の再出発をすることにした。
抵抗 カラー補足版 - 北井一夫 | shashasha 写々者 - 日本とアジアの写真を世界へ
結果は出すんだろうなぁって。
雑誌で見ると、レンズもエルマー5cm、3.5cm、エルマリート28mm(2nd)、ズミルックス35mm(球面)、ズミルックス50mm(2nd)、沈胴ズミクロン5cm、エルマー65mm f3.5、キヤノン25mm f3.5、エルマリート135mm f2.8。
ボディもM6とM5とキヤノンIIDにビット、α7IIだけ。α7以外、10年前と機材が変わってない。
いや、物欲大魔神として、とても真似できないことだけれど、実はすごく憧れている部分でもあって。
例えば、こんな感じの棚に「使っているカメラとレンズ」だけ並べるとか。
防湿庫なんていらないって。すごく心地いいだろうな。でも、手放すとすぐに欲しくなって買い戻したりするから、地獄。
写真で「結果」を残していくのが写真家だと思うけれど、私は趣味。こんなレンズも使ってみたい、あんなカメラも使ってみたいって。
あれやこれや使って、結果的に自分にあったカメラとレンズが残ればいいんじゃない?